2019年に実施された「鼻アレルギーの全国疫学調査2019」1)によると、花粉症の有病率は42.5%とされ20年間で倍増していることが報告されました。スギやブタクサの花粉などのアレルゲンによって体内で放出されるヒスタミンなどが神経を刺激し、発作的に繰り返すくしゃみ、鼻水、鼻づまりを引き起こすのが花粉症の特徴です。基本的に花粉症そのもので咳が出るわけではありませんが、鼻水が喉の奥に落ちること(後鼻漏;こうびろう)で神経を刺激して咳が引き起こされることがあります。

特に喘息をお持ちの患者さんでは、アレルギー性鼻炎や花粉症を合併することが多いです。花粉飛散の季節では症状が悪化しやすくなる可能性があるため、呼吸器内科をはじめ定期的に受診することが大切です。

1) 松原篤 他, 日耳鼻, 2020, 123: 485-490

花粉症で咳が出る理由

花粉症によって引き起こされる症状が、結果として咳や咳払いにつながるとされています。ここでは、花粉症によって咳が出る理由を2つ紹介いたします。

鼻水が喉に垂れ込むため

鼻と喉はつながっているため、花粉症(季節性のアレルギー性鼻炎)や慢性副鼻腔炎によって出た鼻水が、喉の奥に流れ込むことがあります。このことを後鼻漏(こうびろう)と呼び、流れ込んだ鼻水が喉や気道の神経を刺激することで咳症状を引き起こします。尚、このような症状を、「痰が絡む」と表現する患者さんが時々おられますが、痰は気管支の奥から上がって来るものであり別物です。

口呼吸が増えるため

花粉症で鼻が詰まることで特に夜中の鼻呼吸が難しくなり、自然と口呼吸が多くなります。そのため、乾燥した空気や冷気などの刺激やウイルスなどが直接気道に入り込むことで咳が出てしまいます。また、スギ花粉やヒノキ花粉が飛散する春だけでなく、初夏から秋にかけてカモガヤなどイネ科の花粉が、またブタクサなどの雑草の花粉は秋に飛散しアレルギー反応を起こすこともありますので注意が必要です。

咳の原因が花粉症なのか確かめる方法はある?

スギ花粉などに対するアレルギーの有無や鼻水が喉に流れ込んでいるかを調べる必要があります。ここでは主な検査を紹介します。

花粉に対するアレルギー反応を確認する

花粉に対してアレルギーがあるか調べることで、花粉症が咳の原因となっているか判別しやすくなります。検査として、血液検査や皮膚反応検査、鼻粘膜誘発テストなどのアレルギー検査方法があります。

血液検査

血液を採取し、体内のアレルギー反応にかかわっているIgE抗体の量を調べます。IgE抗体の量が多いほどアレルギーの度合いが強いとされており、花粉以外にもカビやダニ・ホコリなど様々なアレルゲンに対する反応を検査することができます。

皮膚反応検査

皮膚の表面をひっかいたり針を刺したりした後に、花粉エキスを垂らし反応をみる検査です。エキスを垂らした箇所が赤くなる、腫れるなどの症状があるとアレルギー反応ありと判断されます。

鼻粘膜誘発テスト

花粉エキスをしみ込ませた紙を鼻の粘膜に貼り、反応をみる検査です。鼻水や鼻づまりの症状が出る場合、アレルギー反応ありと判断されます。

鼻水が喉に流れ込んでいるか調べる

鼻咽腔ファイバースコープという内視鏡を使った検査で、鼻から喉をカメラで観察します。粘りのある分泌物が見られる場合は、鼻水が喉に落ちている状態(後鼻漏)と判断されます。

花粉症が原因のの主な対処法と治療

花粉症が原因となっている咳は、鼻の炎症そのものを抑えるために、薬による治療だけでなく日常生活において予防を行うことが大切です。ここからは、花粉症を抑えるための主な対処法と治療を紹介します。

アレルゲン除去

花粉飛散が多い時は外出を避け、外出する場合はマスクやメガネを活用すると予防できます。また、帰宅した時は衣類や髪をよく払ってから部屋に入り、洗顔、うがいや鼻洗浄も心がけましょう。花粉が衣類に付着しないよう洗濯物は室内で干すこともおすすめします。

対症療法

花粉症による後鼻漏が原因の場合、咳止めを使用しても効果はあまり見込めませんので、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬を服用して、鼻の炎症や症状を抑えます。医療機関を受診して医師の処方箋が必要な医療用医薬品と、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬があります。

アレルゲン免疫療法

アレルゲンを体内に繰り返し投与することで、体をアレルゲンに慣らし、症状を和らげる治療です。注射と舌の下に投与するものがあり、根本的な体質改善も期待されます。鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版 第10版では、治療期間として3~5年程度続けることが記載されています。


その咳、慢性咳嗽(まんせいがいそう)かもしれません

咳が8週間以上長引いている状態を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼び、決して年単位で続いているものだけが「慢性」ではありません。その原因は個人によって異なり、原因が特定できれば治療・対処できるかもしれません。詳しくは、「慢性咳嗽(まんせいがいそう)とは?」をご覧いただき、咳で困っている場合は最寄りの病院やクリニックに相談ください。