風邪を引いた後、熱や喉の痛みは治まったのに、咳だけがしつこく続いてつらい思いをされていませんか。

体は元気になったつもりでも、咳が残っているとすっきりせず、周囲の視線も気になってしまいますよね。風邪で、咳がしばらく続くことは珍しくありません。

しかし、あまりにも長引く場合は、単なる風邪の引き終わりの症状だと考えるのではなく、別の病気を疑ったほうがいいのかもしれません。

この記事では、風邪の咳が通常どれくらいで治まるのか目安を示します。さらに咳が長引く場合に考えられる病気、そして医療機関を受診するべきタイミングについて詳しく解説します。

風邪の咳はどれくらいで治まる?

咳は、痰が絡む「湿性咳嗽」と痰の絡まない「乾性咳嗽」に大別されます。風邪の初期は乾いた咳でも、経過と共に痰が絡む咳に変わることもあります。

一般的に、風邪(かぜ症候群)の症状は3日ほどでピークを過ぎ、咳や鼻水といった症状も多くの場合は1~2週間程度で自然に治まっていくといわれています。咳の症状が続いている間は、喉の乾燥や刺激を避け、声の出し過ぎなど喉に負担をかけない生活を心がけることが大切です。

しかし、3週間を過ぎても咳だけが治まらない場合、それは単なる風邪の引き終わりの症状ではない可能性が考えられます。風邪のウイルス感染が引き金となり、咳喘息など別の呼吸器の病気を発症しているケースもあるからです。

さらに、咳が8週間以上続いている状態は「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼ばれ、単なる風邪ではなく専門的な診断や対応が必要なこともあります。

出典
  • 「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版作成委員会編集、株式会社メディカルレビュー社
    抗微生物薬適正使用の手引き 第三版(厚生労働省健康・生活衛生局)
    呼吸器Q&A(日本呼吸器学会)

咳が長引くときに考えられる主な病気

風邪が治っても咳だけが残る、3週間以上続く、夜間に悪化するなど、咳が長引く場合は、風邪以外の病気が関係していることがあります。

気管支喘息(きかんしぜんそく)

気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起こる病気です。その結果、気道が非常に過敏になり、咳や息苦しさ、発作としてゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)などが起こります。

風邪のウイルス感染がきっかけで気管支喘息を新たに発症したり、すでに気管支喘息を持つ方は、もともとの症状が悪化したりすることもあります。

しかし、気管支喘息を引き起こすきっかけは風邪に限りません。アレルギーの原因となる物質(花粉やダニなど)のほか、タバコの煙やストレス、気温の変化など、様々な因子が発症に関係していると考えられています。

出典

咳喘息(せきぜんそく)

咳喘息は、気管支喘息のような喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難の症状がなく、乾いた咳だけが長く続く病気です。夜間から明け方にかけて症状が悪化しやすいほか、会話、運動や冷たい空気に触れることがきっかけで咳が出たりします。

適切な治療を受けずにいると、気管支喘息に移行する可能性もあるため注意が必要です。

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もしかして喘息?症状の特徴と原因とは?

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDは、主に長期間の喫煙習慣が原因で、肺や気管支に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道が狭くなる病気で、喫煙歴のある中高年の方によく見られます。

主な症状は、長く続く咳や痰です。病気が進行すると、歩行時や階段の上り下りといった日常的な動作でも息切れがひどくなることがあります。

また、COPDの方が風邪を引くと、気道の炎症が急激に悪化し、症状が急に強まることがあるため注意が必要です。

出典

アトピー咳嗽(がいそう)

アトピー咳嗽は、咳に対する神経の感受性が過敏になる病気です。

通常なら反応しないようなごくわずかな刺激にも反応して、咳が出てしまうことがあります。痰の絡まない乾いた咳が長く続き、喉のかゆみやイガイガとした違和感を伴うことが多いのが特徴です。

ご自身がアレルギー性の疾患にかかったことがある場合や、ご家族にアレルギー体質の方がいる場合に発症する傾向が見られます。

出典
  • アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(日本内科学会雑誌)

胃食道逆流症(GERD)

胃食道逆流症(GERD)は、胃酸など胃液が食道へ逆流してしまう病気です。

この逆流によって、胸やけや、酸っぱいものがこみ上げてくる呑酸(どんさん)といった症状が引き起こされます。長引く咳も、この病気が原因で起こる場合があります。胃食道逆流症で咳が生じる仕組みには大きく二つのパターンがあります。

一つは逆流した胃液が直接喉を刺激するケースです。もう一つは、食道に逆流した胃液などの刺激に神経が反応し、反射的に咳が出てしまうケースです。

出典
  • 胃食道逆流症(GERD)ガイド2023(日本消化器病学会)
    胃食道逆流症(GERD)による咳嗽(日本内科学会雑誌)

感染後咳嗽

感染後咳嗽は、風邪などの呼吸器感染症が治った後も、咳だけが長く続いてしまう状態のことです。これは、感染によってダメージを受けた気道が一時的に過敏になることが原因で起こります。

その結果、普段なら気にならないようなささいな刺激でも咳が出てしまうのです。熱や鼻水といった症状がないのに、痰の絡まない乾いた咳が続くのが特徴です。

多くの場合、長くても8週間以内には自然に症状が改善していくといわれています。

上気道咳症候群

上気道咳症候群は、主に鼻や副鼻腔の炎症によって過剰に作られた粘液が、喉の奥に流れ込み(後鼻漏)、咳が引き起こされる状態です。

この流れ込んだ粘液が喉や気管に垂れ込み、痰が絡んだような湿った咳や頻繁な咳払いといった症状が引き起こされます。

副鼻腔気管支症候群

副鼻腔気管支症候群は、慢性的な鼻の炎症である「慢性副鼻腔炎」と、「慢性気管支炎」といった下気道(気管や気管支)の病気が合併して起こる状態です。

主な症状として、膿のような粘り気のある鼻水が喉に流れる後鼻漏(こうびろう)と、膿を含んだ痰が絡む湿った咳が、長期間続きます。

出典
  • 副鼻腔気管支症候群(日本内科学会雑誌)

咳が長引いてつらいときの受診について

長引く咳には様々な原因があり、自分で見極めるのは難しいものです。

ここでは、咳が続く場合に、どのような症状があれば医療機関を受診すべきなのかをお伝えします。

医療機関への受診が推奨される症状の例

一概にはいえませんが、以下のような症状が見られる場合は、単なる風邪の治りかけの症状ではない可能性も考えられるため、早めに医療機関を受診することが望ましいといえます。

  • 3週間以上、咳が続いている
  • 痰に血が混じる(血痰)、または呼吸が苦しい(呼吸困難)
  • 38℃以上の高熱が数日間続いている
  • 咳に伴って胸の痛みがある

症状がこれらに一つでも当てはまる場合は、自己判断せずに医療機関へ相談しましょう。

長引く咳を診てもらえる医療機関とは

長引く咳の症状があって受診する場合、まず「呼吸器内科」で診てもらうのが一般的です。呼吸器内科は、肺や気管支などの呼吸器全般が専門で、一般的な診察に加えて、肺や気管支の状態を詳しく調べ、咳の原因を突き止めます。

ただし、咳だけでなく鼻水や鼻づまり、喉の痛みといった症状が強い場合は、「耳鼻咽喉科」に相談するのも一つの選択肢です。

まずはかかりつけ医に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのも良いでしょう。

咳について相談できる医療機関は、こちらからお探しいただけます。

出典

医療機関で医師に伝えたほうが良いこと

正確な診断を受けるためには、医師にご自身の症状をできるだけ詳しく伝えることが大切です。咳の状態や経過に関する情報は、原因を特定する上で重要な手がかりです。

事前に以下の点を整理しておくと、診察がスムーズに進みます。

  • いつから咳が続いているか(咳の期間)
  • どのような咳か(痰の有無、乾いた咳か湿った咳か、咳の音など)
  • 咳が出やすい時間帯や状況(夜間、早朝、会話中、運動時など)
  • 咳以外の症状(発熱、鼻水、胸やけ、息苦しさなど)
  • 咳によって生活で困っていること(夜眠れない、会話がしづらいなど)
  • 服用中の薬(血圧の薬など)や、すでに試した市販薬(咳止め薬など)
    ※お薬手帳の持参を推奨します。また既に試した薬剤があれば、その効果も控えておくと良いでしょう。

    これらの情報をメモなどにまとめて持参すると、伝え忘れを防げます。
    当サイトでは、「受診サポートシート」をご用意しておりますので是非ご活用ください。

    出典
    • 「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025」日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版作成委員会編集、株式会社メディカルレビュー社

    その咳、慢性咳嗽(まんせいがいそう)かもしれません

    咳が8週間以上長引いている状態を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼び、決して年単位で続いているものだけが「慢性」ではありません。その原因は個人によって異なり、原因が特定できれば治療・対処できるかもしれません。詳しくは、「慢性咳嗽とは?」をご覧いただき、咳で困っている場合は最寄りの病院やクリニックに相談ください。

    長引く咳には、
    病気が隠れているかも
    しれません。

    放っておくと重症化する可能性がありますので、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
    専門医が原因を特定し、あなたに合った治療法を提案します。いますぐ最適な医療機関を検索しましょう。

    症状を上手く伝えられず、治療につながっていない方もいるかもしれません。そんな方は受診サポートシート(保存可能)もご活用ください。