熱はないけれど咳が続くときに考えられる症状とは?受診の目安
2025年12月24日

熱はないのに、咳だけが長引いている……。そのような症状に悩んでいませんか。
原因やどう対処すべきかが分からず、周囲への気遣いからストレスを感じている方もいるでしょう。実は、熱を伴わない咳にはさまざまな原因が隠れている可能性があります。
この記事では、考えられる代表的な病気から、ご自身でできる対処法、そしてどのタイミングで医療機関を受診するべきかまでを詳しく解説します。
熱がないのに咳が続いているときに考えられる病気
熱がないのに咳が出るのは、風邪の引き終わりである場合もありますし、治療が必要な病気である可能性もあります。
ここでは、咳を伴い治療が必要な病気をいくつか紹介します。
感染後咳嗽(かんせんごがいそう)
感染後咳嗽とは、風邪や気管支炎といった感染症が治り、体は回復したにもかかわらず、咳だけが数週間以上続く状態のことです。
これは、ウイルスや細菌との戦いで気道の粘膜が傷つき、咳のセンサーが過敏になっているために起こります。
回復過程にある粘膜は、会話や少しの空気の変化といったわずかな刺激にも気道が過剰に反応し、咳が出てしまいます。感染後咳嗽の場合、病院で胸部レントゲン検査を受けても肺炎などの異常は見つからず、多くは3週間から8週間ほどで自然に治まっていくのが特徴です。
出典
- 感染後咳嗽(かぜ症候群後咳嗽)(日本内科学会雑誌)
副鼻腔気管支症候群
副鼻腔気管支症候群とは、慢性的な鼻の炎症である「慢性副鼻腔炎」と、「慢性気管支炎」などの気管支の病気が合併した状態を指します。
この病気は、膿のように粘り気のある鼻水が、喉の奥へと流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」が症状として表れます。この後鼻漏によって喉が刺激されることで、痰の絡んだ咳や、喉の違和感が生じるのです。
出典
- 副鼻腔気管支症候群(日本内科学会雑誌)
胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症は、主に胃のなかの酸などが食道へ逆流することにより、咳などの症状が引き起こされる病気です。
胃食道逆流症で咳が起こる仕組みは主に2つあります。1つは、逆流した胃酸などが喉を直接刺激するケース。もう1つは、食道にある神経が刺激され、反射として咳が出るケースです。
胃食道逆流症による咳の特徴は、胸やけなどの典型的な食道症状を伴わないことがある点です。このため原因が分かりづらく、咳だけが長期にわたり続いてしまうケースも少なくありません。
出典
- 胃食道逆流症(GERD)ガイド2023(日本消化器病学会)
胃食道逆流症(GERD)による咳嗽(日本内科学会雑誌)
逆流性食道炎
胃酸が繰り返し逆流した結果、食道の粘膜がただれて炎症を起こした状態を「逆流性食道炎」と呼びます。
逆流性食道炎にまで進むと、胸やけや酸っぱいものがこみ上げる感じ(呑酸)、口の中の苦み、喉のヒリヒリ感といった、よりはっきりとした胸部症状が現れやすくなります。ただし、粘膜のただれがない(胃カメラで特に所見がない)場合でも、咳がでることは多くあります。
また、胃食道逆流症や逆流性食道炎は、生活習慣とも深く関わっています。
例えば、就寝前に食事を摂ると、横になった際に胃の内容物が逆流しやすくなるため、夜間や朝方の咳が悪化することがあります。
アルコール摂取や肥満も逆流を招く要因となります。アルコールは胃と食道のつなぎ目を緩める作用があり、この作用によって胃酸の逆流を招きやすくなるといわれています。
また、肥満も腹圧の上昇によって胃酸を押し上げるため、逆流につながりやすくなるといわれています。
出典
- 健康情報誌「消化器のひろば」No.15-3(日本消化器病学会)
逆流性食道炎の現状と予防への取り組み ~自身の逆流性食道炎の研究から~(四国医学雑誌)
咳喘息
咳喘息は、一般的な喘息(気管支喘息)と異なり、ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)や息苦しさを伴わず、咳だけが3週間から8週間、時にはそれ以上続く病気です。
風邪を引いた後に発症するケースが多く、どちらかというと日中のみではなく、夜中から朝方にかけて症状が悪化しやすい傾向があります。
また、冷たい空気やタバコの煙、会話、運動などが刺激となり、咳が誘発されやすいのも特徴です。
咳喘息は、子どもから大人まで発症しますが、特に成人に多く見られます。性別で見ると、小児期は男の子に多く、成人期では男女ほぼ同数か、やや女性に多いとされています。仕事や生活環境によるストレスも重なりやすく、働き盛りの世代がこの咳に悩まされることも少なくありません。
出典
- 咳喘息(日本内科学会雑誌)
厚生労働省資料:第3章「成人喘息の疫学、診断、治療と保健指導、患者教育」
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アトピー咳嗽
アトピー咳嗽は、喘鳴や息苦しさを伴わないものの、痰の絡まない乾いた咳だけが8週間以上長く続く状態を指します。喉にイガイガ、チクチクといったかゆみを伴うのが大きな特徴です。
エアコンの風やタバコの煙、会話、運動といったさまざまな刺激で咳が誘発される点は咳喘息と似ています。
アトピー咳嗽は精神的な緊張も咳の引き金になりやすいとされています。また、ご自身やご家族がアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアレルギー体質の場合、発症しやすい傾向があります。
出典
- アトピー咳嗽/喉頭アレルギー(日本内科学会雑誌)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)や慢性気管支炎などの生活習慣病
COPD(慢性閉塞性肺疾患)や慢性気管支炎は、主に長年の喫煙習慣が原因で発症する生活習慣病で、中高年の方に多く見られます。
熱はないものの慢性的な咳や痰が続き、階段の上り下りなど、軽い運動で息切れを起こしやすくなります。ゆっくりと進行し、重症化すると呼吸困難に陥るなど、日常生活に大きな支障をきたすおそれがあるため、早期の診断と治療が重要です。
出典
咳を和らげる対処法
咳の原因に応じた治療が基本ですが、日常生活での工夫によって症状が緩和されることもあります。
ここでは、ご自身でできる咳への対処法をご紹介します。
こまめな水分補給で気道を守る
喉や気道が乾燥すると、粘膜の防御機能が低下し、ホコリなどのわずかな刺激にも敏感に反応して咳が出やすくなります。咳を防ぐために、体の内側から潤すことが大切です。
白湯や温かいスープ、カフェインを含まないハーブティーなどを、少量ずつゆっくり飲むのがおすすめです。
また、痰が絡む咳の場合は、水分を摂ることで痰がやわらかくなり、体外へ排出しやすくなる効果が期待できます。
加湿や換気で部屋の環境を整える
室内の空気が乾燥していると、喉への刺激が強まり咳が悪化しやすくなります。
空気が乾燥しやすい冬の季節は、加湿器の使用や洗濯物の室内干しといった方法で、部屋の湿度を40~60%に保つよう心がけましょう。
また、室内にホコリやウイルス、ハウスダストなどのアレルゲンが溜まっていると咳の原因となるため、1日数回の定期的な換気も大切です。
さらに、空気清浄機を活用したりエアコンのフィルターをこまめに掃除したりすることで、咳の予防や悪化防止につながります。
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喉に優しいケアを心がける
咳を少しでも和らげるには、日々の生活の中で喉に優しいケアを意識することがポイントです。
例えば、マスクの着用は喉の保湿と外部刺激の遮断に有効です。のど飴やハチミツで喉を潤したり、塩水やうがい薬で喉の洗浄と殺菌を行ったりすることも、症状の緩和につながります。
このようなシンプルなケアを積み重ねることで、つらい咳症状が軽減されることもあります。
生活習慣を見直して回復をサポートする
咳の改善には、体本来の回復力を高める生活習慣を取り入れることが重要です。
十分な休養と睡眠は、咳を和らげるために必要な免疫力を維持する上で不可欠です。食事においても栄養バランスを整え、ビタミンA、C、亜鉛などを意識的に摂ると良いでしょう。
また、体調が良い日には、無理のない範囲で軽い運動やストレッチを取り入れると、肺機能の維持に役立ちます。激しい運動を無理にする必要はなく、ウォーキングやヨガなどで体をほぐすだけでも呼吸が楽になることがあります。
一方で、タバコは咳を悪化させる大きなリスク要因ですので、禁煙や減煙に努めましょう。
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熱はないけれど咳が続くときの受診の目安
セルフケアを続けても咳が改善しない場合、何らかの病気が潜んでいる可能性も考えられます。ここでは、医療機関の受診を検討する際の目安について解説します。
咳が3週間以上続く
咳の期間は、原因を見分けるための一つの目安です。
3週間未満で治まる咳は「急性咳嗽(きゅうせいがいそう)」と呼ばれ、その多くは、風邪などの比較的軽い感染症が原因で、自然に治まることがほとんどです。
しかし、咳が3週間以上~8週間未満続く場合は「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」、8週間以上にわたって続く場合は「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と分類されます。咳が長引いているのであれば、単なる風邪ではなく、他の病気の可能性も考える必要があります。
以下のような場合は、早めに内科や呼吸器内科の受診を検討しましょう。
- 風邪の他の症状は治まったのに、咳だけが続いている
- 市販の咳止め薬を服用しても、症状が改善しない
もし咳の原因が咳喘息や胃食道逆流症などであった場合、市販の咳止め薬(鎮咳薬)では根本的な治療にはなりません。それぞれの病気に合った適切な治療を受けることが大切です。
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慢性咳嗽(まんせいがいそう)とは?あなたの咳が当てはまるかどうかの見極め方
呼吸や生活に支障が出てきている
咳が続いた期間だけでなく、咳の頻度や呼吸の状態を見極めて受診するか考えましょう。咳がひっきりなしに出たり、呼吸に違和感を覚えたりしたときも、受診を検討することをおすすめします。
特に、以下のような症状がある場合は、気管支や肺に何らかの異常が起きている可能性があります。
- 息をするとゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)がする
- 階段を上るなど軽い運動で息切れ・動悸がする
- 夜間や明け方に咳で目が覚めてしまう
- 胸の痛みや圧迫感を伴う
- 呼吸が浅い、または息苦しさを感じる
【緊急性の高い症状】速やかな受診を
咳に伴って、次のような症状が見られる場合は注意が必要です。放置すると大変危険ですので、速やかに医療機関を受診することをおすすめします。
- 血が混じった痰(血痰)が出る
- 緑色や茶色など色の濃い痰が続く
- 急激な体重減少が見られる
- 強い倦怠感があり、食欲もない
これらは肺がんや肺結核、重度の感染症といった病気の兆候である可能性も考えられます。
当サイトでは、「受診サポートシート」をご用意しておりますので、症状の整理に是非ご活用ください。また咳について相談できる医療機関は、こちらからお探しいただけます。
その咳、慢性咳嗽(まんせいがいそう)かもしれません
咳が8週間以上長引いている状態を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼び、決して年単位で続いているものだけが「慢性」ではありません。その原因は個人によって異なり、原因が特定できれば治療・対処できるかもしれません。詳しくは、「慢性咳嗽とは?」をご覧いただき、咳で困っている場合は最寄りの病院やクリニックに相談ください。
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長引く咳には、
病気が隠れているかも
しれません。
放っておくと重症化する可能性がありますので、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
専門医が原因を特定し、あなたに合った治療法を提案します。いますぐ最適な医療機関を検索しましょう。
症状を上手く伝えられず、治療につながっていない方もいるかもしれません。そんな方は受診サポートシート(保存可能)もご活用ください。


